インターネットを見ていると、「色素沈着に強い効果を発揮するハイドロキノンは、意外にもイチゴやコーヒー、紅茶にも含まれている天然成分なのです」というような文言を見かけることがあります。
例えば、製薬会社のウェブサイトでも
「ハイドロキノンは、イチゴ類、麦芽、コーヒー、紅茶など天然にも存在する成分」と記されてます。
本当なの?と思って調べてみると、ちゃんと文献がありました。
Human Exposure to Naturally Occurring Hydroquinone.
P J Deisinger et al.
J Toxicol Environ Health. 1996 Jan;47(1):31-46
ハイドロキノンは古くから工業的に合成されていて、1946年頃にハイドロキノン合成工場に於ける健康被害の報告がされています(報告を受けて対策がされて、今では同様な健康被害はなくなっていると思われます)。職業的にハイドロキノンに暴露されている人がいるわけですが、そうではない人の尿中や血清中からも低濃度のハイドロキノンが検出されるため、この論文では候補となる食品について、ハイドロキノン含有の有無について調べています。
コーヒー(0.2ppm)、赤ワイン(0.5ppm)、小麦(0.2~0.4ppm)、ブロッコリ(0.1ppm)などから検出され、さらに健康な被験者がこれらを含んだ食事をすると2~3時間後に血清中のHQが5倍、尿中では12倍になったと報告しています。
(つまり、一般の人で、食品中のハイドロキノンが体内に摂取されていることが示唆される)
イチゴ(果物として有名なイチゴ;バラ科)については、文献は見つかりませんでしたが、イチゴノキ(ツツジ科、英語でも”strawberry tree”)については複数の文献が見つかりました。
例えば、
Quantitative Analysis of Arbutin and Hydroquinone in Strawberry Tree (Arbutus Unedo L., Ericaceae) Leaves by Gas Chromatography-Mass Spectrometry.
Karlo Jurica et al.
Arh Hig Rada Toksikol. 2015 Sep 1;66(3):197-202
ちなみにwikipediaによれば、イチゴノキの果実は食用にはなるが、あまり美味しくないもののようです。もしかすると、イチゴノキとイチゴが混同されて「イチゴにハイドロキノンが含まれている」説が広まったのかもしれないですね。
また、hydroquinoneの英語版wikipediaには、天然に於けるハイドロキノンの例がいくつか記載されています。
“Bombardier beetle”という昆虫は危機に際してお尻からハイドロキノンと過酸化水素の混合液をスプレー噴射して身を守るそうです。検索すると、カエルに捕食された後に生還するBombardier beetleの様子がYouTubeでご覧頂けます(閲覧注意)。
その他、クマコケモモにはアルブチンが含まれていて、食するとアルブチンの代謝物であるハイドロキノンが尿中から検出されるそうです。
クマコケモモは英語で”bearberry”で、上記のイチゴノキと同様にツツジ科でイチゴに似た〇〇ベリー系の果実が成りますので、ハイドロキノンがイチゴに含まれる説の出所はこちらの可能性もあるかもしれないですね。
いずれにしても、天然にも存在する成分であることは、ハイドロキノンの効能や安全性とは関係がありません。「豆知識」になるかなという程度のこととご認識頂ければと思います。