マスク着用による肌への影響

新型コロナウィルス、緊急事態宣言は解除されましたが脅威が去ったとは程遠い状況で、むしろこれからが新型コロナウィルスと私たちがお付き合いしていく本番かと思います。

巣ごもりから解放されて、密を避けながらも他の人々と接していくために外せないのがマスクですね。

さて、マスクを着用していると、常時、頬にマスクが触れている状態になりますから、それが刺激になってニキビができやすくなりそうです。
実際、「マスクが触れる部分にニキビができて・・・」というご相談は、コロナ禍の中で私も何人か経験しています。

そんな中で、マスクが皮膚に与える影響について調べた研究が報告されました。
新型コロナ感染が最初に拡大した武漢からそう遠くない四川省で、まさにコロナが広がっていた今年の2月から4月に、健常者を対象に行われた実験です。

Short-term Skin Reactions Following Use of N95 Respirators and Medical Masks
Wei Hua et al.
Contact Dermatitis. 2020 May 13;10.1111/cod.13601. on line ahead of print

実験に参加したのは20人の中国人の健常者で、室内環境に1時間慣れてからマスクを4時間連続(ただし、途中で測定のために短時間外している)で着用し、着用中(2と4時間)と着用後(30分と1時間)の肌の状態を測定しました。
測定した項目は、肌の潤い、経皮水分喪失量(TEWL)、紅斑(炎症による赤み)、pH、皮脂分泌です。
2種類のマスク(N95マスクとサージカルマスク)を用意し、2日間(間に1日以上空けて)に分けて、1日目にランダムに決定したどちらかのマスクを着用、2日目にもう一方のマスクを着用して実験をしています。
測定は、マスクでカバーされる部分とカバーされない部分との両方を測定して、マスクによる影響を判定しています。

結果は、
どちらのマスクでも、肌の潤い(10%強)、TEWL(20~30%)、pH(0.1くらい)は統計的に有意に上昇、紅斑(値)はマスクで覆われた部分でベースライン(着用前)よりも上昇、皮脂分泌(50%くらい)は、マスクでカバーされた部分とカバーされていない部分の両方でベースラインよりも上昇しました。
上昇の程度は、N95とサージカルマスクとで有意差はなかったものの、外した後の回復はN95の方が時間がかかる傾向がみられていました。

肌が潤うのは、蒸気を含んだ呼気がマスクと口の間にたまるからかと思います。
TEWLとpHが上昇しているのは、肌の健常なバリア機能が損なわれていることの表れと考えられます。
紅斑がみられるのは、マスクで覆われて皮膚の温度が上昇することで血流が増えたと言えなくもないですが、マスクを外した後も紅斑がしばらく持続していて、炎症による反応のように見えます。

皮脂分泌がマスクで覆われていない部分でも上昇している(しかも覆われている部分と上昇率があまり変わらない)のは興味深い現象ですが、筆者らもその原因については未知としていました。

皮脂分泌の増加はニキビの主要な原因ですから、患者さんが「マスクをしたらニキビができた」と感じる、私たちが「マスクをする人が増えたらニキビの訴えが増えた」と感じることの合理的な説明になっていると思います。
機械的刺激がニキビの悪化要因になるとはよく言われることなので、マスク着用の影響は「マスクが触れていること」くらいに思っていましたが、こうした実験結果を見せられると、なるほど、それだけではないことが良く理解できました。

なお、ニキビ以外にも、マスク着用でかゆみを感じたり、接触性皮膚炎を発症したりも普通にあることだそうです。
(私自身は多少のかゆみ以外はあまり経験しませんが)
これもTEWLやpHの上昇などの上記の結果で説明ができますね。

新型コロナと付き合っていく上で必要なマスクと手洗い。
手洗いは、エタノールでも石鹸でも肌荒れを起こしやすいもの、そして、マスクも今回の論文で分かったように、多少は肌トラブルを招くもの。
こうしたことも理解した上で、上手にお付き合いしていきたいものです。